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宮崎地方裁判所延岡支部 平成5年(ワ)192号 判決

原告

堀田孝一

右訴訟代理人弁護士

中島多津雄

鍬田萬喜雄

西田隆二

松田幸子

成見正毅

後藤好成

年森俊宏

被告

学校法人延岡学園

右代表者理事

佐々木秀雄

右訴訟代理人弁護士

佐々木龍彦

俵正市

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告の間において、原告が被告に対して雇用契約上の地位を有することを確認する。

2  被告は、原告に対し、昭和六三年七月二一日以降毎月二一日限り金二八万二九六〇円の割合の金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2につき、仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張〈略〉

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一当事者間に争いのない事実

一  当事者

1  原告は、昭和四八年四月以降、学園に理科の専任教諭として勤務し、本件組合員であり、同六三年七月一日当時、本件組合の執行委員を三期、書記長を二期、執行委員長を三期経験しており、同六一年秋以降現在も執行委員長の地位にある。また、右昭和六三年七月一日の時点で、原告は毎月二一日限り月額二八万二九六〇円の給与を得ていた。

2  被告は、学校教育法・私立学校法に基づく学校法人である。

二  本件解雇及び保全処分の経過

1  昭和六三年七月一日付けで本件解雇がなされた。

2  原告は、本件解雇後、当庁に対し、その無効を理由とする地位保全等の仮処分を申請し、当庁は、平成元年一一月二七日、本件解雇を無効とする判決を言い渡した。しかし、被告は、福岡高等裁判所宮崎支部に控訴し、同支部は、同五年一〇月二〇日、控訴を認容して右判決を取り消し、本件解雇を有効とする判決を言い渡した。

三  本件解雇に至る経過

1  本件組合は、昭和六一年一〇月下旬から一一月上旬にかけて機関紙「かかし」を配布した。右機関紙は、五五年協定によって、配布方法についてのみ制限が付けられていた。同六三年一月二三日、当時の学園校長長友勲は、機関紙の配布について注意した。

2  昭和六二年四月、原告はクラス担任を外された。また、被告は、同六二年度の校務分掌についての教職員の希望調査をしなかった。

3  本件組合は、昭和六二年一一月二〇日ころ、「真の労働戦線の統一を考える全国教職員懇談会」主催の学習会案内のビラを本件組合員のみに配布した。右日時ころ、当時の教頭太田賢一郎が原告を呼び出し、無許可のビラ配布は就業規則違反であると注意し、佐々木副理事長が原告を含む本件組合の三役を呼び、学園施設内での機関紙以外の配布は許可を受けるよう注意した。

4  本件組合は、その活動のための専用の部屋ないし事務所を有していなかった。昭和六三年二月ころ、本件組合が職場会開催のための会場使用を申し入れたところ、校長は拒否した。一方、発展会は、右結成前から大会議室の使用を認められたり、被告理事が出席していたりしていた。

5  本件組合と被告との間で、昭和六三年二月二五日団交が開かれたが、被告は機関紙の検閲規制撤廃、(本件組合員とその余の職員の間の)賞与差別の是正、本件組合職場会のための学園内施設利用及び組合事務所の供与といった本件組合の要求を拒否した。

6  被告は、昭和六一年度以降、常勤講師制度を導入し、一年未満の期限付きで常勤講師を採用してきたが、本件組合は、同六三年三月一〇日以降、本件組合員である常勤講師能丸、濱口、緒方及び右谷の専任化を要求し、被告に対し、団交を申し入れ、同月二四日及び二八日、団交が開かれた。同月三〇日には常勤講師能丸及び濱口の雇止めが明らかになったので、本件組合は同月末及び同年四月四日の二回にわたって団交を申し入れ、同月二一日、団交が開かれた。

本件組合は、同月五日、被告に対してストライキ権を確立したことを被告に通告し、ほぼ同時に、能丸及び濱口は、当庁に地位保全等の仮処分を申し立てた。また、本件組合は、同月六日、教育条件一五項目及び労働条件・設備その他の要求一二項目からなる被告理事会宛「要求書」を被告に提出した。

7  本件組合が、昭和六三年四月七日、県に対し、本件申入書を提出するとともに、同月中旬、表現を若干改めた父兄等配布文書を生徒の父兄等に宛てて配布したところ、被告は、本件申入書を被告の名誉を毀損する文書であるとし、これを県当局へ提出し、かつ、父兄等配布文書を生徒の父兄等に宛てて配布した行為は組合活動の範囲を大きく逸脱し、勤務規定三二条四号違反であるとしている。

8(一)  本件組合員が、昭和六三年四月八日午前八時二五分から始業式の始まるまでの約一時間半の間、学園内においてリボンを着用したが、被告は、右行動を勤務規定三〇条二号及び五五年協定違反であるとしている。着衣の胸部に着用されたリボンは、「明るい学園を作ろう」という文言が記載された、長さ一〇センチメートル、幅二センチメートルのものである。

(二)  本件組合は、昭和六三年四月八日、生徒通用門から離れた公路上において、登校してくる学園の生徒に対し、生徒配布文書を配布した。また、常勤講師であった右谷(昭和六一年四月採用、同六三年四月退職)が、陳述書を作成して当庁に提出したところ、これを読んだ学園の太田賢一郎校長(当時)は、同年五月二七日、熊本中央女子高校の副校長に、同月三一日、右谷本人に電話をかけ、被告事務長の佐々木雅彦、須田利久及び河野穣次の三名が翌六月一日に熊本市を訪れて右谷を呼び出した。本件組合は、これに抗議する趣旨で、同日に本件抗議文書1を、同月二日に本件抗議文書2をそれぞれ配布したところ、被告は、右各行動を勤務規定三一条二項違反であるとしている。

9  本件組合は、昭和五〇年の春闘に際し、校門から玄関、事務室、校長室等にステッカー貼り付けたり、職員室内での腕章プレート闘争、一日スト等の争議行為を行った。これに対する被告の処分は、当初半日減給であったが、その後訓告に変更された。

第二認定事実

前記当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨及び末尾掲記の証拠によれば、以下の事実を認めることができ、これに反する証拠は各項末尾掲記の証拠に照らし、採用することができない。

一  当事者

1  原告は、昭和四八年四月以降、学園に理科の専任教諭として勤務し、本件組合員であり、同六三年七月一日当時、本件組合の執行委員を三期、書記長を二期、執行委員長を三期経験しており、同六一年秋以降現在も執行委員長の地位にある。また、右昭和六三年七月一日の時点で、原告は毎月二一日限り月額二八万二九六〇円の給与を得ていた。(〈証拠略〉、原告本人)

2  被告は、学校教育法・私立学校法に基づく学校法人である。人事権は、理事長の権限とされ、人事の結果は理事会に報告される。(〈証拠略〉)

二  昭和四二年から同五五年の就業規則改訂までの間の経過

1  本件組合は、昭和四二年に結成され、同年五月一日に規約が制定された。同年七月には、本件組合員である三名の教師の解雇問題が生じたが、被告は同月一四日、これが誤りであることを認めた。また、被告は、同四八年にも本件組合員の処分を撤回した。(〈証拠略〉)

2  本件組合は、昭和四九年三月、被告に対し、停年が間近に迫った本件組合員中島教諭の停年延長、授業料値上げ撤回、経理公開及び公費助成運動への真剣な取組みを要求し、リボン闘争を行った。これに対し、被告はリボン闘争の中止と始末書の提出を求めたが、本件組合はこの求めを拒否し、同年五月には賃上げ要求に対する被告の回答を不服としてスト権行使の通告をした。(〈証拠略〉)

3  本件組合は、昭和五〇年になると、被告に対し、右2の中島教諭の退職金の増額、学費値上げ反対、団交における誠実な応対を求めて、校門から玄関、事務室、校長室等にステッカーを貼付し、職員室内での腕章プレート闘争等の争議行為を行い、被告からの腕章着用等に対する警告がなされた後の、同年三月二〇日、給与値上げ、教師一人当たりの授業持ち時間数の削減、年次有給休暇運用の正常化、労働協約締結の努力、専任教員の増員、生徒指導室の設置、職員会議への事務長の出席、退職金増額、共済組合掛け金の被告負担増額、冬でも水が出るようにタンク・ポンプを取り替えるといった要求をした。被告はこれらの要求のうち、退職金の増額は拒否し、本件組合の争議行為につき、父兄宛にこれを批判する文書を交付し、ステッカー貼付への警告を発した。他方、本件組合も同年四月、学費値上げ反対及び経理公開要求を記載した文書を、同年五月には三月二〇日の被告への要求を記載した文書を父兄宛に交付し、同年五月二一日にはストライキを実施した。これに対応して、被告は翌二二日、父兄に対し、予算書を転載する等して実情を説明する文書を交付した。本件組合と被告の右のような対立状態は、同年六月七日に給与交渉が妥結してから沈静化し始めたところ、被告が、同年一九日に本件組合三役に対し、文書の無許可配布、腕章着用及びステッカー貼付等の就業規則違反を理由として半日減給の処分を通告したことから、本件組合が再び抗議書を提出したり、ビラを配布したりするといった事態となったが、同年七月一八日、処分を訓告に変更することで決着した。なお、この間、学園後援会(現在の「父母の会」)から、本件組合に対して、右のような争議方法に対する抗議がなされたが、本件組合はこの抗議が受け入れ難く、実行した争議方法が適法かつ適切であるとの回答を文書で行った。(〈証拠略〉)

4  被告は、昭和五一年四月に特別奨学生規則を制定した。これによれば、特別奨学生は授業料のみを免除され、特別奨学生の資格を喪失しても、翌月からの授業料を納付すればよいと定められていた。本件組合は、被告に対し、同月二一日、同五〇年三月二〇日と同様の要求を行った。同五二年四月一八日の要求書には水道が冬に断水するとの指摘がある。本件組合は、同年五月、本件組合員にプレートを着用させたまま授業を行わせたため、被告から警告を受けている。同五三年二月一八日の要求書には教育条件についての要求はなく、同五四年三月二六日の要求書には水道の抜本的改善及び校門や自転車置き場の改善が記載され、同五五年三月二一日の要求書には、後記三1の就業規則改訂についての意見のほかに、水道の改善(具体的な記載はない。)及び保健室の電話設置といった施設改善要求が記載されている。

他方、同五四年六月には、本件組合と被告の間で、学園内における生徒への組合文書の配布を行わないとする覚書が交わされた。(〈証拠略〉)

三  昭和五五年の争議及び五五年協定の締結

1  被告は、昭和五五年四月一日から、新たな勤務規定等(以下「五五年諸規定」という。)及び特別奨学生規則(以下「特待生新規則」という。)を制定した。五五年諸規定は、職員の給与について、「当分の間、「宮崎県職員の給与に関する条例」に掲げる給料表に準ずる。」との定めを変更して賞与を全額考課査定するものとし、兼業を許可制とし、有給休暇は一日を最小単位とし、学園内での「かかし」の配布を実質的に制限した。また、特待生新規則は、免除される納付金を授業料のみならず入学金や寮費にまで拡大した反面、特別奨学生の資格を喪失した場合には既に免除された金額を弁償させることがあるとの定めを置いた。(〈証拠略〉)

2  本件組合は、右1の五五年諸規定に反対し、有給休暇規定の変更に対して、本件組合員が従前通りの半日有給休暇を申請して休んだり、団交拒否や「かかし」の配布制限に対して、「かかし」の配布や抗議文書の提出といった活動をした。これに対し、被告は、「かかし」の無断配布に対する警告を発する等して、被告と本件組合との間の対立が生じた。本件組合は、同年六月にプレートを着用するという行動に出たが、被告はこれに対しても警告を発した。(〈証拠略〉)

3  本件組合は、同年七月七日、宮崎県地方労働委員会に対し、不当労働行為救済の申立てをし(同月一三日受理)、その後も被告に対する抗議文を提出し続けた。(〈証拠略〉)

4  本件組合と被告の間で、同年八月二三日、五五年協定が締結された。これによれば、

(一) 「かかし」の配布は従前のとおり職員に配布することができるが、生徒の目に触れないよう注意する(三項)

(二) 学園内では本件組合は本件組合員にプレートを着用させない(四項)

(三) 生徒を介しての組合文書の配布については、団体交渉において協議するものとし、その間一定の結論を得るまでは行わない(五項)

と定められた。ただし、「かかし」は生徒の目に触れないよう配慮して配布するとの定めが追加され、本件組合員のみが閲覧し又は配布を受けるいわゆる内部文書に関する定めはない。(〈証拠略〉、被告代表者本人)

四  五五年協定締結から常勤講師制度導入までの経過

1  本件組合は、被告に対し、昭和五六年四月に専任教員の増員と学校運営の民主化(ただし、設備に関する要求はない。)を求めた要求書を、同五七年三月及び同六〇年三月に考課査定及び不当労働行為の中止を求めた要求書(ただし、同六〇年三月の要求書には教育条件に関する要求はない。)を、同六一年三月に保健室の位置移動及びジュース自動販売機の撤去を求めた要求書を提出した。(〈証拠略〉)

2  本件組合は、昭和五八年四月ころから、「かかし」において、学園と全国の私立学校を、労働条件、教育条件及び学校の民主的運営等の観点から比較するようになった。他方、被告は、同五九年に勤務規定等を改訂し、年度末手当(三月)について考課査定制度を導入したほか、収入の有無にかかわらず、勤務時間中の兼業を禁止した。(〈証拠略〉)

3  原告は、昭和六一年度、クラス正担任、クラブ顧問(男子テニス)及び奨学金係を担当していた。同年四月から常勤講師として、能丸、濱口、右谷、緒方及び鴉徹(以下「鴉」という。)が学園に着任した。常勤講師制度は昭和六〇年度から導入されたもので、一年の期限付き契約で、契約更新は二回までとされていたが、その担当職務等は専任教員と大差がなく、学校要覧等には「教諭」と記載されていた。ただし、給与は同年数勤務の専任教諭よりも高額に定められていた。常勤講師制度を採用した目的は、後記4の生徒の急増減に対応するためであった。(〈証拠略〉、被告代表者本人)

4  宮崎県内の私立高校は、昭和六一年当時、同六二年度からの生徒募集見込みについて、一時的に増加するものの、同六六年度(平成三年度)以降は定員割れが生じると危惧し、その対策を協議して文書化した。被告は、延岡市内の緑ヶ丘高校との間で、同六一年九月、生徒減少期には、被告において一学年の定員を同五九年度の水準三五〇名まで段階的に引き下げるとの合意をした。さらに、被告は、翌六二年一〇月には、宮崎県内の一三の私立高校の間での覚書にも調印し、右の合意を再確認した。一方、同年二月には、学園の増改築が完了し、施設が充実して、前記1の昭和五七年三月の本件組合の要求書中の教育条件に関する要求はほぼ充足された。学園においては、常勤講師制度を採用した同六〇年度以降、教員数中の講師数の割合が三五パーセントを超過し、同六三年度には四〇パーセントを超過した。同年度において、宮崎県内の主要私立高校で、右割合が四〇パーセントを超過したのは被告を含めて四校である。

なお、学園において、常勤講師から専任教諭に昇格したのは、二名のみである。(〈証拠・人証略〉、被告代表者本人)

5  本件組合は、昭和六一年一〇月に同六二年度の運動方針を決定したが、最大の問題とされていたのは他校との賃金格差の是正であり、学園の施設改善要求は独立の要求項目にはなっていない。本件組合は、右の運動方針の下で、同月下旬から一一月上旬にかけて、他校との給与比較、管理教育への批判及び公費助成運動に関する記事を掲載した「かかし」を配布した。これに対し、被告は、職員室に「かかし」を広げてあると生徒の目に触れるので今後そのようなことがあれば、配布を禁止すると警告した。(〈証拠略〉)

6  昭和六二年四月、原告はクラス担任を外された。また、被告は、同年度の校務分掌についての教職員の希望調査をしなかった。同六一年度に採用された常勤講師のうち、鴉を除く四名は同六二年度も常勤講師として雇用され、クラス担任、クラブ顧問及び校務分掌を担当した。

被告は、同月七日から本件解雇の根拠となった新たな勤務規定や常勤講師勤務規定等(以下「六二年諸規定」という。)を施行し、初めて常勤講師に関する規定が成文化された。これによれば、常勤講師は雇用期間が満了すれば当然に退職し、賞与は全額が考課査定の対象となると定められている。また、給与規定では、職能給が二段階に区分けされ、考課査定の対象となること及び賞与のうち通算二か月分が考課査定の対象となることが定められた。

同年度の本件組合員のうち、夏、冬とも職員全体の平均支給割合以上であったのは三名で、下回ったのは一五名であった。(〈証拠略〉、原告本人)

7  本件組合は、昭和六二年一〇月に同六三年度の運動方針を決定したが、目標として掲げられているのは、考課査定廃止、独裁運営の解消、就業規則改悪との戦いといった項目であった。本件組合は、同六二年一一月二〇日ころ、「真の労働戦線の統一を考える全国教職員懇談会」主催の学習会案内のビラを本件組合員のみに配布した。右日時ころ、当時の教頭太田賢一郎が原告を呼び出し、無許可の組合文書配布は就業規則違反であると注意し、佐々木副理事長が原告を含む本件組合の三役を呼び、学園施設内での機関紙以外の配布は許可を受けるよう注意した。本件組合はこれに抗議した。もっとも、現実に組合文書や機関紙について配布が不許可とされたことはない。(〈証拠略〉、被告代表者本人)

五  本件解雇までの経過(昭和六三年)

1  昭和六三年一月八日、発展会が結成された。当初の会則には、他の団体に所属する者は発展会から除名されるとの条項は含まれていなかった。発展会は、右結成前から大会議室の使用を認められたり、被告理事が出席していたりしており、被告から事実上の支持を受けていた。被告は、同じころ、能丸及び濱口の雇止めを決定していた。濱口は、同六二年に体罰を行って問題を起こしていた。(〈証拠・人証略〉)

2  本件組合は、昭和六三年一月から二月にかけて、被告に対し、考課査定の根拠を公開するよう求め、考課査定や他校との賃金格差に関する記事を掲載した「かかし」を発行し、学園の教職員に対し、同年度の要求事項をまとめる際の資料となる無記名式アンケートの用紙(ただし、設備に関する項目はない。)を配布した。また、本件組合は、その活動のための専用の部屋ないし事務所を有していなかったので、同年二月ころ、職場会開催のための学園内施設の会場使用を申し入れたところ、当時の長友校長はこれを拒否した。さらに、本件組合は、同月二三日、被告に対し、常勤講師の待遇改善に関する申入れを行った。(〈証拠略〉)

3  本件組合と被告との間で、昭和六三年二月二五日団交が開かれた。被告は「かかし」の事前許可規制撤廃について、本件組合が五五年協定を無視して「かかし」を生徒の目に触れるような方法で配布したり、無許可で組合文書を配布したとの理由で、五五年協定が破棄されたとした上で、「かかし」の配布にも六二年諸規定を適用するとして右規制の撤廃を拒否したほか、考課査定の根拠公開、(本件組合員とその余の職員の間の)賞与差別の是正、本件組合職場会のための学園内施設利用及び組合事務所の供与といった本件組合の要求も拒否した。(〈証拠略〉)

4  発展会は、昭和六三年二月下旬ころ、同年度の再雇用の見込みがないとの噂があった能丸に発展会への加入を勧め、同月二二日、総会を開催し、同月二九日、本件組合に対し、「かかし」を含む組合文書を会員に配布・郵送しないよう申し入れた(この時の文書には、濱口、緒方及び右谷も名前を連ねていた。)。さらに、発展会は、同年四月六日に規約を改訂し、他の団体に所属する者は発展会から除名されるか、加入を認められないとの条項を追加した。(〈証拠略〉)

5  被告が、昭和六三年二月末に作成した同年三月から四月にかけての行事予定表には、濱口が同月二日の日直を担当するとの記載がある。しかし、常勤講師の雇用更新の有無は人事権者以外の職員の知るところではなく、人事権者は行事予定表の作成に関与しないために、同月以降の人事との間に齟齬が生じることがあり、右記載も、このような理由から、後日、誤記とされた。(〈証拠略〉)

6  常勤講師能丸、濱口、緒方及び右谷は、昭和六三年三月七日、本件組合に加入した。さらに、同月九日、碓田を招いての学習会の席で、本件組合員から学園の運営に関する様々な意見(後に本件申入書に集約されたものもある。)が出されるとともに、碓田から私立学校の監督権を有する県への行政指導申入れという方法があり、現実に行政指導申入れをしたことによって状況が改善された例もあることを教示された。そこで、本件組合は、右四名の常勤講師の専任化を要求することにし、翌一〇日から再三にわたって、被告に対し、団交を申し入れ、同月二四日及び二八日、団交が開かれたが、被告は右常勤講師に対して最初の雇用の際に二年目からは教諭にするとの約束をしたことはないと主張し、同月二四日、常勤講師能丸及び濱口に対し、雇用期間満了通知をし、同月三〇日には雇用契約をしないとの電話連絡をし、両名の雇止めが明らかになった。そのため、本件組合は同月二五日、三〇日及び同年四月四日の三回にわたって、同月八日の始業式までに能丸及び濱口の雇止めを撤回させようと、同月六日を交渉日時にするよう団交を申し入れたが、新入生の受入れ等を理由に被告が期日の延期を求めたので、結局、同月二一日、団交が開かれた。(〈証拠・人証略〉、原告本人)

7  本件組合は、6記載の団交と並行して、労働条件や教育条件に関する要求を、回収したアンケートや不動産登記簿謄本を基に集約する作業を進めていたが、常勤講師雇止め問題が差し迫った問題となったことから、同月四日、組合規約の変更手続を取って、組合事務所を委員長宅とし、名称の変更を行い、常勤講師雇止め撤回のため県当局への行政指導申入れを決めた。さらに、本件組合は、同日、ストライキ権確立の賛否を本件組合員に諮ったところ、大多数が賛成した。そこで、本件組合は、翌五日、ストライキ権確立を被告に通告し、能丸及び濱口は、当庁に地位保全等の仮処分を申し立てた。続いて、原告を含む本件組合執行部は、同月六日、教育条件一五項目及び労働条件・設備その他の要求一二項目からなる被告理事会宛「要求書」を作成し(これは原告が書面にまとめたものではない。)、被告に提出するとともに、在校生の一部の家庭に「父兄の皆様への経過説明」、署名用紙及び「御父兄各位への説明要領」を封筒に入れて郵送した。ほぼ同じころ、原告を含む本件組合執行部は、行政指導申入れの方法として、本件申入書を県当局に提出することを決め、原告が文案をまとめた。ただし、本件申入書の記載内容は、表現の綿密な検討や、事実関係の確認を経ておらず、当時の執行委員が本件申入書の内容・表現に関する議論に加わっていない等本件組合員の協議も十分にはなされていなかった。(〈証拠・人証略〉、原告本人)

8  原告は、昭和六三年四月から、クラブ顧問及び校務分掌から外された(ただし、奨学金係は、校務分掌自体から削除された。)が、父母の会地区担当(南区)は前年同様とされていた。(〈証拠略〉)

9  本件組合は、昭和六三年四月七日、県当局に対し、本件申入書並びに能丸及び濱口両名の雇止めが不当であるとの「行政指導申入書」(以下「常勤講師申入書」という。)を提出した。このような申入れは宮崎県では初めてのことであった。さらに、本件組合は、同月中旬に父兄等配布文書(本件申入書については申入項目〈6〉、〈7〉、〈13〉の記載内容を変更し(申入項目自体は同数)、被告理事会宛の「要求書」及び常勤講師申入書についてはほとんど表現を変えていない。)を、同月二五日ころ、「学校側の文書の特徴と私たちの考え」と題する文書を、生徒の父兄等に宛てて配布したが、被告に対しては、本件申入書の提出や父兄等配布文書の配布の事実を通告してはいない。これに対し、被告は、本件申入書を被告の名誉を毀損する文書であるとし、これを県当局へ提出し、かつ、父兄等配布文書を生徒の父兄等に宛てて配布した行為は組合活動の範囲を大きく逸脱し、勤務規定三二条四号違反であるとしている。(〈証拠略〉)

10(一)  本件組合員は、昭和六三年四月八日午前八時二五分から始業式の始まるまでの約一時間半の間、学園内においてリボンを着用したが、被告は、右行動を勤務規定三〇条二号及び五五年協定違反であるとしている。着衣の胸部に着用されたリボンは、「明るい学園を作ろう」という文言が記載された、長さ一〇センチメートル、幅二センチメートルのものである。このリボン着用については、二三名の本件組合員中二名が反対した。また、着用直後の午前八時三五分ころ、太田校長から五十嵐書記長に対し、リボンの取外しが命じられた。

(二)  本件組合は、同日、生徒通用門から離れてはいるが、登校に際して生徒が必ず通過する公路上において、登校してくる学園の生徒に対し、生徒配布文書七〇〇ないし八〇〇枚を配布した。これについては、二三名の本件組合員全員が賛成した。また、常勤講師であった右谷(昭和六一年四月採用、同六三年四月退職)が、陳述書(〈証拠略〉)を作成して当庁に提出したところ、右陳述書を読んだ学園の太田賢一郎校長(当時)は、同年五月二七日、熊本中央女子高校の副校長に、同月三一日、右谷本人に電話をかけ、被告事務長の佐々木雅彦、須田利久及び河野穣次の三名が翌六月一日に熊本市を訪れて右谷を呼び出し、右陳述書の内容の訂正や撤回を求めた。本件組合がこのような行動に抗議するため、同日の始業時間前に組合機関紙ではない本件抗議文書1を、同月二日の始業時間前に組合機関紙ではない本件抗議文書2をそれぞれ封筒に入れて全職員に配布したところ、被告は、右各行動を勤務規定三一条二項違反であるとしている。(〈証拠・人証略〉)

11(一)  濱口及び能丸は、同年四月中旬から六月まで、登校してくる学園の生徒に学園通用門前の路上で「おはようございます」と題するビラを配布した。

(二)  本件組合は、

(1) 同年四月六日に一部の父兄に宛てて発送した封筒の宛名が父兄ではなく、生徒本人になっていたことを被告に指摘され、誤記自体は認めたが、根本的な原因は能丸及び濱口の雇止めであるとして、

(2) 本件申入書記載〈13〉の特待生が除籍ではなく退学であったと被告に指摘され、同年五月六日、事実誤認は認めたが、原因は被告の「非民主的な」学校運営であるとして、

(3) 同月三〇日、本件申入書の記載が事実と異なっているとの被告からの指摘をはっきりとは認めず、原因は被告の団交拒否であるとして、

被告に対する謝罪を拒否した。

(三)  被告は、同年四月一三日、父兄に対し、生徒配布文書に関する被告の見解を記載した文書を配布した。さらに、被告は、同月二一日の団交において、常勤講師問題は裁判係争中につき話し合う必要がないとし、同月六日の要求書についても、できることから順次やっていくが、七〇名の職員のうち二〇名の組合員のみと交渉し、他の職員や担当者を通じることなく話し合うべきではないから、団体交渉で結論を出すことはできないとした。また、被告は、同年六月八日、本件組合から出される抗議文の内容は虚偽であるとして、警告を発した。

(四)  本件組合は、同年五月二七日、被告事務長の佐々木雅彦が、常勤講師で本件組合員の緒方に対し、濱口及び能丸の裁判に提出する陳述書を作成したことを非難したとして、抗議文を提出した。また、本件各抗議文書については、被告に対し、これらが組合機関紙であるとの抗議文を提出した。(〈証拠略〉)

12  被告は、本件申入書を受理した宮崎県から、同年四月中旬に調査を受けたが、具体的な改善指示・指導はなかった。また、学園父母の会の新旧会長が、同年五月一九日に学園を訪問し、施設を見学したが、本件申入書ないし父兄等配布文書の指摘するような問題が実在するとの印象を受けることはなかった。本件組合は、本件申入書の県当局への提出後、県当局に対し、学園への調査等の実施につき、何らの問い合わせもしていない。(〈証拠略〉、原告本人、被告代表者本人)

13  被告は、同年六月二四日午後に原告を呼び出し、本件解雇理由となったリボン着用、生徒配布文書及び本件各抗議文書の配布並びに本件申入書及び父兄等配布文書の提出・配布に関する弁明を求め、翌二五日には理事会で原告の懲戒解雇を決定し、同年七月一日、原告を別紙〈略〉1「懲戒解雇理由書」記載の理由で、一か月分の給与に相当する予告手当を支給した上で、懲戒解雇するとの意思表示をした(本件解雇)。ただし、本件解雇に先立って、被告は、本件申入書中の申入事項〈3〉については、これらが事実かどうかを確認していないし、同〈17〉についても後記六2記載の延岡保健所からの証明がなされるまでは、正確な事実関係を確認していない。(〈証拠略〉)

六  本件解雇後の事情

1  本件組合は、本件解雇後、父兄に対し、原告、濱口及び能丸の解雇撤回を求める署名への協力を要請し、右三名の裁判等を支援する「守る会」への入会を勧誘した。これと並行して、本件組合は、被告に対し、平成五年までの間、裁判での証言等への干渉等を止めるよう抗議を続け、同年五月には宮崎県地方労働委員会に対し、本件組合員であることに基づく給与格差や職場での差別的待遇につき、不当労働行為救済の申立てをし、同九年四月には、右申立ての一部につき、これを救済する命令が出された。(〈証拠略〉)

2  延岡保健所は、平成元年三月、学園に調理科が開設された昭和四六年以来、学園調理科において食中毒は発生していないとの証明書を発行した。大腸菌が学園内の井戸水から検出されたのは同四七年一〇月の一回だけであった。同五六年に発生した生徒の集団下痢は風邪が原因であって、同年二月一八日の調理室の水の飲料不適格判定も残留塩素の不足が原因であり、自動滅菌装置が設置された。(〈証拠略〉)

3  平成二年一一月から一二月にかけて、文部省からの指示に基い(ママ)て学園内の井戸水の水質検査が行われ、一一月には大腸菌群が検出されたが、その原因は採水の不手際によるものと考えられ、一二月に再検査された際には大腸菌は検出されなかった。(〈証拠・人証略〉、被告代表者本人)

4  被告は、本件申入書の申入事項〈7〉(保健室のベッド)につき、養護担当の内村教諭に買替えの必要を確認したが、不要との回答を得た。(〈証拠略〉)

第三当裁判所の判断

一  懲戒事由の存否について

1  リボン着用及び生徒配布文書の配布について

右両行為は、昭和六三年四月八日午前八時過ぎから一〇時前ころまでの間に、一連のものとして行われたので、一括して判断する。

(一) 前記第二の五7、10で認定した事実によれば、本件組合が、同月四日にスト権確立の決議をした上で、組合活動の一環として右両行為を行ったが、その主たる目的は本件組合員である能丸及び濱口の雇止めの撤回であったことを、前記第二の二2、3、4、三2、4で認定した事実によれば、五五年協定は、前年の覚書や昭和五五年までの争議行動を踏まえて成立したことを、前記第二の四7、五3で認定した事実によれば、右両行為当時、本件組合において五五年協定が破棄されたとは考えていなかったことを認めることができる。

(二) 生徒配布文書の学園通用門付近の公路上での配布は、配布の時間や場所を考えると、学園の生徒に対して漏れなく生徒配布文書を配るという効果の点で、学園内での配布よりも有効な方法であった。また、リボンは、確かにプレートとは材質的には異なるが、生徒に対して、学園と本件組合との間に労働争議が発生していることを示すという機能については何ら差異はない。

(三) 次に、リボンに記載された文言や生徒配布文書の記載内容について検討する。前記第二の五10で認定した事実によれば、本件組合員は、生徒配布文書の配布行為のときからリボンを着用し、始業式が始まるまで取り外していないと認めることができる。このような事情の下で、学園の生徒が、「両先生のことで真実をお知らせします」との表題の付けられた生徒配布文書の記載内容とリボンに記載された「明るい学園を作ろう」との文言を併せて読めば、右リボンの文言で訴えていることが、能丸及び濱口の雇止め撤回であると理解することは明らかで、生徒を争議行為に巻き込むことまで意図していたとまではいえないけれども、生徒間に不安感や学園に対する不信感を抱かせるに足りる記載である。また、生徒配布文書の記載内容については、当時、本件組合において把握していた事実が書かれていて、扇動的・感情的な表現を控えてはいるが、第三段落の記載は前記第二の四3、4で認定した事実に反していること、第七段落の記載は被告の経営姿勢に対する批判であって、父兄にならばともかく、生徒に直接訴えてよいのかどうかに相当な疑問があることからすると、生徒に対する配慮が不十分であった。

(四) 右(一)で認定した事情並びに右(二)及び(三)での検討によれば、右両行為は、五五年協定の潜脱ないしは違反といわざるを得ず、勤務規定中の被告の指摘する各規定にも違反することになる。ただし、本件全証拠によっても、右両行為の結果、学園において生徒が被告側の指示に従わなくなって授業が成立しなくなったり、学園内での秩序を維持することができなくなったといった事態が生じたと認めるには至らない。したがって、右両行為の違法性は、それほど高いとはいえない。

2  本件申入書について

(一) 原告は、被告が、本件申入書の表現の些細な齟齬(問題の理解を容易にするために掲げた実例としての事実が現実とは異なっていること)のみを殊更に重視し、学園の教育の改善を目的とした本件申入項目の主旨を理解しようとしないと論難している。具体的には(〈証拠略〉)、

(1) 申入項目〈1〉、〈9〉及び〈16〉によって、学園の常勤講師制度の他校との違い及び教育上の弊害を指摘し、

(2) 同〈2〉によって、少数の理事による専断という私立学校法の趣旨に違反する理事会の運営を指摘し、

(3) 同〈3〉によって、杜撰な被告の運営を指摘し、

(4) 同〈4〉によって、臨時的な措置であったはずの臨時免許しか有していない教員を多数雇用し、普通免許の取得を奨励しようともしない被告の経営姿勢を指摘し、

(5) 同〈5〉によって、職員に対し、経理を公開しようとしない被告の姿勢を指摘し、

(6) 同〈6〉によって、公私の区別をつけて、公費は教育のために使用すべきだと主張し、

(7) 同〈7〉によって、教育条件、施設・設備改善要求を拒否しないでほしいと主張し、

(8) 同〈8〉によって、被告の強制的な管理主義教育の弊害を指摘し、

(9) 同〈10〉によって、考課査定が精神的・経済的に本件組合の壊滅を狙った賃金差別であると主張し(〈証拠略〉)、

(10) 同〈11〉によって、学園内での職場会の禁止、機関紙配布の制限、内部文書の事前検閲、組合費の学園内徴収の禁止といった、本件組合の労働組合としての基本的な活動への被告の制限を指摘し、

(11) 同〈12〉によって、教育よりも経営者の家族の利益を優先している被告の経営姿勢を指摘し、

(12) 同〈13〉によって、就学意欲のある生徒を中退に追い込むような、特待生新規則や、自殺者まで出ても職員会議も開催されない学園の運営の問題点を指摘し、

(13) 同〈14〉によって、学園の労働条件が劣悪であることを指摘し、

(14) 同〈15〉によって、新築した校舎の管理を教育よりも重視する被告の姿勢を指摘し、

(15) 同〈17〉によって、生徒の健康管理上、地下水から水道への切替えを早急にすべきであると主張し、

(16) 同〈18〉によって、授業をしていない非常勤講師を、長年にわたって非常勤講師のままで学校案内等に記載したと指摘し、

これらの改善あるいは実現のため、県当局に行政指導を要請したというのである。

(二) しかし、右各申入項目の基礎となったと原告が説明する(証拠略)の記載中、これらとの関連が窺われるのは、「特待(スポーツ、普通科)には疑問点がある」(クラブ活動の項、申入項目〈13〉)、「保健室の改善を」(クラブ活動の項、申入項目〈7〉)及び「常勤講師の加(ママ)重労働、常勤講師→専任教諭の確立を、差別的な扱いをなくせ」(雇用条件、身分問題その他の項、申入項目〈1〉、〈9〉及び〈16〉)に限られ、(証拠略)の原資料である(証拠略)のアンケート用紙の設問も、(証拠略)の集約項目と一致していること、昭和六三年三月四日付け長期活動方針(案)(〈証拠略〉)の記載中、(1)が申入項目〈11〉と、(2)7が同〈6〉と、(3)5が同〈8〉と、(3)10が同〈4〉と、(3)11が同〈13〉と、(4)が同〈1〉とそれぞれ関連していて表現も類似しているが、その基礎となった資料がどのようなものか不明であること、前記第二の五7及び11(二)で認定した事実をも考慮すると、本件申入書の各申入項目の大半は、原告や昭和六三年三月から四月初旬にかけての本件組合員の記憶や伝聞に基づいて決められたというべきである。

(三) さらに、各申入項目について個別に検討する。

(1) 申入項目〈1〉、〈9〉及び〈16〉については、第一に、前記第二の四3及び4で認定した事実によれば、「解雇」という表現が事実に反しており、第二に、学園以外の私立高校の常勤講師制度との比較なしで「教育の場では継続性が大切」との理由のみで、常勤講師制度が不適切であると断定しており、第三に、理由を示すことなく講師が入試問題を作成していることが当然に不適切であると断定していることからして、表現中に不適当ないし事実に反する部分がある。

(2) 同〈2〉については、理事会は、本件申入書作成前には昭和六二年五月三〇日、同年一一月二一日、同六三年一月二三日及び同年二月二〇日に開催されており(〈証拠略〉)、職員の採否は理事長の専決事項であることは五五年勤務規定でも六二年勤務規定でも明記されていることからすると、事実に明らかに反している。

(3) 同〈3〉については、本件組合員が訪問した監事において、訪問者らが人事問題(能丸及び濱口の雇止め)を話題としたので、他の監事の名前を答える必要がないと考えて知らないとの返答をした(〈証拠略〉)のであり、この返答の真偽を確認することは容易であったといえる。

(4) 同〈4〉については、「正式」という文言が法規に反しているのみならず、臨時免許しか持たない教員による教育が「公教育の場ではゆるされることなのか」として、暗に臨時免許しか持たない教員が教育に携わることが違法・不当であるかのような文章であり、教員免許制度に対する一つの見解ではあるが、表現としては不適切である。

(5) 同〈5〉については、問題の土地が被告代表者個人の所有であり、これを被告訴訟代理人佐々木龍彦(被告代表者の子)が賃借し、建物を建てていることは明らかで(〈証拠略〉)、しかも、問題の土地の登記簿謄本を本件申入書作成前に入手していることも併せ考えれば、原告が本申入項目を記載したことは重大な過失に基づく。

(6) 同〈6〉については、高齢の理事長を自宅へ送っていくための車両利用であることが欠落しているが、公用車の利用に関する一つの見解として理解することはできる。

(7) 同〈7〉については、原告や本件組合が庭園に植栽された樹木の価格を確認したり調査したりしたことはなく、また、前記第二の六4で認定したとおりベッドの買替え要求がなされた事実もないことからすると、虚偽の記載である。

(8) 同〈8〉については、昭和六二年度の学園の、休学者を含めた退学者の人数自体はそれなりの資料に基づいてはいるが、退学の原因が学園の制度にあるかどうか何ら具体的な指摘もないままに、県当局に行政指導を求めており、本件申入書の他の項目を併せても、退学の原因を特定するには至らず、不適切な表現である。

(9) 同〈10〉については、補助がなされている以上は勤務評定をするのは不当であるとしていて、この前提自体がまず疑問ではあるが、本件組合員の昭和六二年度の「総損失額」や他の私立高校との年収比較についてはそれなりの資料に基づいている(前記第二の四5及び6)。

(10) 同〈11〉については、前記第二の四5、7、五2、3で認定したとおり、学園内での職場会の禁止、組合費の学園内徴収の禁止は事実であるが、機関紙配布が現実に制限されるに至ったことはなく、表現が誇張に過ぎる。

(11) 同〈12〉については、スリッパの盗難や紛失を防止するための方策として、昭和六二年度から毎年買替えるという方法が職員会議の議事を経て採用されたという経緯(〈証拠略〉)からすると、スリッパの買替えに関する部分は事実に反する。また、ジュースの自動販売機については、前記第二の四1で認定したとおり、本件組合がその撤去を要求したことは事実であるが、生徒が休み時間等に学園外に赴いてジュース等を購入するよりは学園内に自動販売機を設置するほうがよいとの被告の判断が教育的配慮を欠くと断定することはできず、見解の相違といわざるを得ない。

(12) 同〈13〉については、バレー部の特別奨学生であった女子生徒は除籍ではなく退学になっており、しかも退学時期は、男子生徒の自殺の後であることからすると(〈証拠略〉)、事実経過を偽った記載であり、学園の特別奨学生制度に対する誤認を招く危険がある。

(13) 同〈14〉については、非常勤講師や常勤講師を区別することなく総数のみを記載しており、かつ、退職原因が学園の劣悪な労働条件であるとしているのは、事実に反する。

(14) 同〈15〉については、退職した美術担当の常勤講師から本件組合員の一人が聞いたにすぎず、その真偽は確認されていない。

(15) 同〈17〉については、前記第二の六2で認定した事実関係からすると、毎年のように大腸菌が発生したかのような本申入項目の記載は虚偽といわざるを得ず(確かに、前記第二の六2及び3で認定した事実中には、大腸菌が検出されたとされる部分もあるが、本申入項目の表現は、年次を全く特定していないから、真実を述べたと評価することは到底不可能である。)、多数の生徒を預かる学園の教育機関としての適格性に重大な疑問を抱かせる表現である。

(16) 同〈18〉については、確かに、被告はほとんど授業をしていない非常勤講師を、長年にわたって非常勤講師のままで学校案内等に記載している。

(四) 右(一)ないし(三)の検討によれば、本件申入書の中には、重大な過失によって虚偽の事実や誤解を招きかねない事実が記載されており、被告の利益を不当に侵害し、その名誉・信用を毀損あるいは失墜させるものであり、これを県当局に提出した行為及び父兄等配布文書を学園の父兄に配布した行為は正当な労働組合活動の範囲を逸脱し、高度の違法性があると判断せざるを得ない。確かに、前記第二の五13で認定したとおり、被告は、本件解雇の時点において、申入項目〈3〉及び〈17〉につき、その事実関係を確認していないが、前記第二の五12で認定したように県当局が本件申入書受理直後に学園に調査に赴いたことや、申入項目〈2〉、〈4〉、〈5〉、〈7〉、〈11〉、〈13〉ないし〈15〉に限ってもその表現や記載内容の不当性は重大であることからすれば、右判断を左右することはない。

なお、原告は、本件申入書の提出が、県にとっては、一方当事者である本件組合の学園における教育条件の不備・問題点についての主張にすぎず、注意喚起程度の意味しか有していないとも主張するが、労働組合のいわゆる情報宣伝活動一般と一定の法的効果ないし社会的意味合いを有する公的機関に対する申入れとは質的に異なるものであって、相当の慎重さが要求されてしかるべきである。

3  本件各抗議文書の配布について

(一) 前記第二の五10(二)で認定した事実及び本件各抗議文書の記載内容によれば、本件各抗議文書は「かかし」ではないこと、本件各抗議文書に記載された内容は事実とはほぼ符合していること、本件組合が本件各抗議文書配布の際、その時間や配布方法について、生徒への影響が生じないよう配慮したことを認めることができる。

(二) 右(一)で認定した事情よれば、本件各抗議文書の配布は、五五年協定及び勤務規定中の被告の指摘する規定に違反してはいるが、その配布に至る経過において、被告にも非難されるべき行動があったこと(裁判係属中に相手方に有利な内容の陳述書を作成して裁判所に提出した右谷に対し、裁判外で右陳述書の内容の訂正や撤回を求めたこと)を考慮すると、違法性を認めることはできない。

4  懲戒事由の存否についての結論

(一) 原告は、右1ないし3で検討した各行為には、実質的に懲戒事由に該当しないといえる特別の事情があると主張する。確かに、右3(二)記載のとおり、本件各抗議文書の配布についてはこのような事情の存在を認めることができるが、右1及び2で検討した行為については、本件全証拠によっても、このような事情の存在を認めることはできない。

(二) 原告は、本件解雇の手続上の問題点を指摘し、懲戒解雇の選択が誤りであると主張する。このうち、平等取扱いの問題については、前記第二の二で認定した昭和五五年までの本件組合の行った争議行為の経過と、本件解雇の原因となった組合活動とを比較すると、確かに、昭和五〇年の際の争議行為の方が、被告に対し直接的ではあるが、給与に関する交渉自体が妥結していることや配布された文書の記載内容が本件申入書あるいは父兄等配布文書とは異なって虚偽の事実を含んではいないことを考慮すると、本件解雇の原因となった組合活動の方が、被告の名誉・信用の毀損を生じさせた点でより違法性が高いと評価することは、被告の懲戒権行使の裁量の範囲を逸脱したものではないということができる。次に、相当性の原則については、昭和六三年四月から本件解雇に至るまでの本件組合あるいは原告の活動(前記第二の五11及び12)を考慮すると、被告が懲戒解雇を選択したことが右原則に違反するとはいえない。さらに、手続の不当性については、前記第二の五11(二)及び13で認定した事実によれば、原告は本件申入書の内容について再三にわたって訂正する機会を与えられていたことを認めることができるから、釈明の機会を与えられなかったということはできない。

(三) したがって、本件解雇は懲戒事由を具備している。

二  不当労働行為について

1  前記第二の一1、五1ないし4、8、11(三)及び六1で認定した事実によれば、被告は本件組合に対して、少なくとも嫌悪感を抱いていたと認めることができる。

2  被告が、本件解雇当時、本件組合に対し、右1のとおり嫌悪感を抱いていたとしても、前記一の判断のとおり、本件解雇は懲戒事由を具備しているのであるから、本件解雇が不当労働行為に該当するかどうかは、本件組合の結成当時からの活動経過や本件リボン着用、生徒配布文書の配布、本件申入書の県当局への提出及び父兄等配布文書の配布自体の違法性を総合した上で、仮に原告が本件組合員でなかったとしても被告が懲戒処分として最も重い懲戒解雇を選択したといえるかどうかによって決するのが相当である。

まず、本件組合の結成当時からの活動経過を検討する。前記第二の二1ないし4、同三1ないし4、同四1、2、5ないし7、五2ないし6で認定した事実によれば、〈1〉昭和五五年までは、ステッカー貼付やストライキといった激しい争議行為が行われていたこと、〈2〉五五年協定の締結後は〈1〉のような争議行為は行われていないが、設備等の教育条件の充実を含めた要求書を被告に提出してきていたこと、〈3〉昭和六〇年代の活動の中心的課題は、賃金問題(当初は他の私立学校と学園の間の賃金格差是正であったが、六二年諸規定制定後は学園内での本件組合員とそうでない者との間の賃金格差是正となった。)であったこと、〈4〉常勤講師雇止め撤回問題は、昭和六三年三月までは発生していなかったことを認めることができる。このような活動経過からは、本件組合が、公教育を担う教職員を構成員とするという特色を要求書の提出という行動に反映させながらも、労働組合本来の目的である労働条件(=賃金)の向上を中心的課題としてきたという特徴を認めることができる。このような本件組合の活動の特徴からすると、本件リボン着用、生徒配布文書の配布、本件申入書の県当局への提出及び父兄等配布文書の配布は、常勤講師雇止め撤回という主たる目的、態様及び被告の業務阻害の危険性の程度のいずれの観点からしても、それまでの争議行為とは質的に異なっている。

次に、前記第三の一1(四)及び2(四)の判断によれば、本件リボン着用、生徒配布文書の配布、本件申入書の県当局への提出及び父兄等配布文書の配布を併せた違法性は高いといわざるを得ない。特に本件申入書の記載内容の中には、重大な過失に基づいて被告の名誉・信用を失墜させる危険があり、刑事告発がなされてもおかしくないものがある。

右のような事情を総合すれば、仮に原告が本件組合員でなかったとしても、本件リボン着用、生徒配布文書の配布、本件申入書の県当局への提出及び父兄等配布文書の配布を行っていれば、被告において懲戒解雇を選択したといえる。したがって、本件解雇は不当労働行為に該当するとはいえない。

三  結論

以上のとおり、原告の請求は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日=平成九年九月二四日)

(裁判長裁判官 村田鋭治 裁判官 阪本勝 裁判官 野村朗)

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